( 真夜中の公園。電灯の白い光がまるで月の光のみたいに見える。 ) 目が覚めたのは夕方だった。一瞬、ここがいったいどこなのか、わからなかった。ブランコの軋む音、ボールの跳ねる音、こどもたちの弾けるような笑い声。そういったものが遠くにかんじられた。まるで映画でも見ているかのように非現実的な感覚だった、わたしは窓の外を眺める。磨かれた窓。硝子越しに見る風景はぼやけている。いつから分け隔てるようになったんだろう。むかしはたしかにわたしもあの集団のなかのひとりだった。わたしたちの思い浮かべる発想は飛びぬけて自由でどこへでもいけた、何にだってなれた。なにも恐れてるものなんてなかった。中途半端に大人になってしまったいまはもう、こわいものが出来過ぎてしまった。いつのまにわたしは無邪気な時代を通り過ぎていた。もう二度とじぶんにはこない瞬間。こどもたちを見ていれば、いつだってわたしはそれを傍観できる。それがときどきわたしを妙に感傷的な気分にさせる。わたしの内面をめぐる、わたしの思考の、悪い癖。大人になれば自然と消滅していくものとばかり思っていた。だけどこどものころも大人になっても、癖は癖なのだ。断固として自分のなかにしつこく居座るこどもの影を捨てきれないまま、無条件に残酷に、夢見る時代は過ぎ去っていく。 長い時間眠っていた。いくつもいくつも、短い夢を見た。どの夢もこれといった結末は迎えず、気づかないうちにまた違う夢に切り替わる。目覚めた瞬間、優しいまどろみ。夢の残像が思い浮かぶ。だけどなぜだか起き上がる動作をしただけで忘れてしまう。こんなに長く眠ったのは、久しぶりだった。 眠っていれば、考えなくて済むと思った。見なくても済むと思った。 眠っているときは、まるですべての束縛から解放されたみたいに楽で、ふわふわと心地よい浮遊感がわたしの体を取り巻いていた。だけど目が覚めた瞬間に、風船が割れるみたいにぱちんと音をたてて弾けて消える。大きく膨らんでいるみたいだけれど、その中身は空っぽ、だから飛べる。飛ぶことが、できてしまう。夢みるように心地良いなら、わたしはきっとなんだってできる。 今夜、日が暮れたら。とっぷりと優しい闇が世界を包んだら。椅子から立ち上がろう。おそれるものなんてなにもない。誰も、そんなふうに泣く理由なんてないんだよ。(10.0526)



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