きみは、必死でこのはかの中身を守っていかなきゃならない だれかの手によって傷つけられることから、守っていかなきゃならない だけどきみはいま、その義務を放棄しようとしている かすり傷をつけられることもあるだろうよ あるいははこを必死で抱えて守ろうとするきみの背中に、 容赦なく蹴りをいれられることもあるだろう はこのなかみが風船だったとしたならば、かんたんに割られてしまうこともあるだろうよ だけどでも、生きていくってそういうことだ 思春期を過ぎたある日の春、はこのふたをぼくは開けた かみさまだってきっと、はこのなかみを見るなだなんて、たぶんぼくには告げなかった はこの中身を開けたとき、ぼくの耳の横側を、 なにかがふっと通り過ぎたようなかんじがした はこの中身は、からっぽだった けだるいからだ、はきけ、ぼくは、いつまでたってもねむいまま ぼくのからだは、うごかないまま おぼつかないあしもと 古傷の手首 読みかけの文庫本 表面だけをなぞった音楽 目を閉じておもう やさしいおもいで ぼくのからだは、うごかないまま からっぽのはこを、抱いたまま 硬直(10.0926) |