彼女とはじめて会ったとき、彼女の両目の瞼は赤く腫れていた。僕とふいに目が合ったとき、彼女は一瞬なみだをたくさん瞳のなかにためていて、そしてはっと我にかえったような表情をして、へんなふうに笑った、それからすこし頭を下げた。そして逃げるようにその場を去った。僕の横を通り過ぎるとき、すこしわざとらしげに鼻をすする音が聞こえた。僕は、そういうふうに通り過ぎる彼女を、ふしぎときれいだとおもった。僕は頼りない足取りで歩いていく彼女のひっそりとした背中を目で追っていた。彼女は、駅の雑踏のなかに消えていった。とても寒い冬の真昼のことだった。空は澄んだ灰色で、しんと静かで、こまやかな雪がはらはらとちゅうを舞っていた。(20111020)



inserted by FC2 system