家族が寝静まった真夜中、洗面所の扉を開けて、電気をつける。洗濯機を背もたれにして、膝を折り曲げて床に座る。洗濯機はひんやりとしている。浴室のにおい。橙色の照明。浴室の窓は僅かに開いていて、秋の虫の鳴くこえと、風の吹く音が聞こえた。夜のにおいがした。穏やかで、静かな夜だ。わたしはしばらくぼうっとしていた。携帯電話を取り出して、あのひとに宛てるメールの文章を考える。人に宛てるメールの文章を考えているとき、わたしはいつもひとりだけれど、メールの文章のなかにいるわたしは、やけに朗らかで、愛想が良い。ぱかり、と携帯電話を閉じて、溜息をつく。今日もまた一日が終わる。わたしは脱衣かごに服を放り込んで、あたたかいシャワーを浴びて、あたたかい湯船に浸かる。天井に立ち込める湯気をぼうっと見つめる。そうしてすべてが、ゼロになる。(20111020)



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